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今回はね。”サンタクロースのスキーヤー”。ゼンマイ仕掛けのブリキ玩具なんだけど、ちょっとトボけた表情の顔はソフトビニールで作られている。
ゼンマイを巻くと、両手のスティックで地面を突くように腕を振って、底部の車輪で前進する。
まるでスキーで滑っているように滑らかな動きだ。暫く走ると一端停止する。そして、クルリと方向を変えてまた走り出す。
プリントも丁寧にデザインされていて、柊の蝶ネクタイ,上着のボタンに積もった雪、ベルトにつけられた鈴、足下に飛び散る粉雪などが表現されいて見ているだけで楽しい。
サンタの背中に描かれているのは、"NORTH POLE"という文字だ。
どうやらこのサンタは北極からスキーでやってきたらしい…っていうかさ、本物のサンタならトナカイに乗ってくればいいじゃん! なんでスキー? なんで手ぶら?
やっぱりさ、この人は”サンタのコスプレイヤー”なんだと思うよ。だって、本物のサンタは、背中に"北極"(NORTH POLE)なんて描かないよ。
ところで、サンタクロースは永らく北極に住んでいると信じられていたけれど、今ではフィンランドに住んでいることになっているらしい。
これは、1925年にフィンランドの新聞が勝手に「北極では食料が不足し、トナカイに餌をあげることが出来なくなったため、サンタクロースは、フィンランドのラップランドに引っ越した」と発表したことが元になっている。
要するに言ったもん勝ちってことだ。調子に乗ったフィンランドは、1927年にはフィンランド公共ラジオ番組『子供の時間』で、「サンタクロースはラップランドのコルヴァチュンティリ(Ear Fell)に住んでいる」と、これまた勝手な設定を追加した。
これだったら誰もが勝手に、「サンタクロースはうちの庭に住んでる」とか、「焼き鳥を食ってるとこ見た」とかなんて主張するのもアリ!
本物のサンタクロースにしてみれば、知らないうちに住民票を移されたり、それを公表されたりするのも同然で、「こいつらには死んでも贈り物はやらん。むしろ、死んでしまえ! 死ぬべし死ぬべし!」と毒づき、クリスマスには背負った袋から木のクイを取り出して、雄叫びを上げながらそいつらの心臓に打ち込むことであろう。
さて、例え”スキーをするサンタ”の正体がコスプレイヤーだとしても、クリスマスソングは欠かせない。コスプレにはコスプレにふさわしいクリスマス・アルバムがあるのだ。
やっぱりお奨めは、ビートマスの楽しいアルバム、『クリスマス!』。
ビートマスは、スカンジナビアのビートルズ・コピーバンドで、本来のグループ名は“RUBBER BAND”。
クリスマスの時期だけサンタの扮装で、ビートマスとしての活動をしていた。
彼らが残したアルバムが、この『クリスマス!(XMAS! THE BEATMAS)』で、クリスマスのスタンダード曲をビートルズアレンジで機嫌よく歌っている。ときどき、本物のビートルズがビートマスに扮して歌ってるんじゃないかと思ってしまう。
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「言いたいことはそれだけか?」、店主の声が響いた。私がうなづくと彼は続けた。
「しかし、お前が持ってくるサンタのモチーフは、コスプレばかりだな。本物をモチーフにした玩具がそこにあるぞ」
「これ電池で動くやつだね」
「サンタクロースをモチーフにした玩具は、一定の収集家がいる分野だからな。これも探してほしいと頼まれた品だ」
「ソリを引っ張るのにトナカイが一匹ってのは、荷が重いんじゃないの?」
「いいんだよ! さてと、”サンタクロースのスキーヤー(Santa Skier)”は、1950年代にバンダイが発売したものだな。同じモチーフの玩具は多いが、その中でもそこそこの人気があるぞ。そうだな、\20,000で手放してみるか? もちろん仲介料はそこからたんまりといただくがな」」
「イヤだよ。クリスマス気分が味わえるんだから」
私は首を横に振ると『葛楽堂』を後にした。